学校法務コラム
生徒・学生
弁護士 山田 司

成年年齢引き下げ後の退学希望について

 成年年齢を満18歳に引き下げる改正民法の施行日(令和4年4月1日)が目前に迫っています。施行日以降は、18歳になれば親の同意がなくても単独で有効に契約を締結することができるようになるので、法曹関係者の間では若年者の消費者被害が増えることが懸念されています。

 学校運営者にとっては、高校3年生が続々と成人を迎えるという、いまだかつて経験したことのない状況が待ち受けています。喫緊の課題の一つは、成年に達し、親権に服することがなくなった生徒が退学届を提出した場合の扱いではないでしょうか。学校側は、できれば在校生には卒業証書を手にして欲しいと考えるでしょうし、父母等の多くも同様でしょう。まずは、本人を交えて話し合いの機会を設けるというのが、成長過程にある若年者のためにも望ましいことです。

 それでは、もし学校や父母等の説得にもかかわらず本人の退学の意思が固い場合には、どうするべきでしょうか。学校教育法施行規則第94条には、「生徒が、休学又は退学をしようとするときは、校長の許可を受けなければならない。」と定められています。一見すると、退学を許可するかどうかは校長の裁量のように読めますが、成年に達している生徒が本心から退学を希望している場合に、この規定を根拠に退学を許可しないことには問題があります。成人である以上、就職の自由を含む自己決定権(憲法第13条)があり、誰もこの権利を侵害することはできないからです。また、退学には両親の同意が必要である旨の規定を学則に設けたとしても、このような規定は、司法判断で有効性が争われた場合には、成人については無効(民法第90条)と判断される可能性が高いと思われます。もし不当に退学を妨げれば、不法行為責任(民法709条、710条)や国家賠償責任(国家賠償法1条)が生じる可能性もあるでしょう。

 結論としては、校長は、本人の意思を尊重して退学を許可するほかありません。学校関係者としては、いまだ成長過程にある高校生が退学という重大な決断を下すことは心中穏やかではないでしょう。しかし、成年に達するということはそういうことなのです。高校生は未成熟であるという先入観を捨てなくてはならないのでしょう。最近、大人顔負けの研究や発見をする高校の部活動や、ボランティア活動で成果を出している高校生の記事を目にすることが増えました。インターネットで最新の情報を入手することができ、誰もが発信者になれる時代です。若くて適応力があるから、意識の高い生徒は成長のスピードが速いのです。

 もっとも実際に退学を希望する生徒の多くは、授業にも部活動にも興味が持てずに通学する意欲を失ってしまった者ではないでしょうか。学校運営者には、このような消極的理由による退学希望者を出さないように一層の目配りが求められます。                      

(2022年1月13日)