学校法務コラム
学校法人
弁護士 山田 司

贈収賄と私学のガバナンス改革

 東京オリンピック・パラリンピックを巡る汚職事件の捜査が続いています。日本を代表する有名企業のトップが次々逮捕されるというのは考えてみれば異常なことですが、感覚が麻痺してしまったのでしょうか驚きはありません。

 この一連の逮捕は、「令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」という法律の中の「組織委員会の役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。」という規定に基づくものです。受託収賄罪で起訴されている大会組織委員会の元理事は公務員ではありませんが、この規定によって刑事罰の適用については公務員とみなされています。いわゆる、みなし公務員規定です。公務に準ずる公共性・公益性を有していることが理由です。

 みなし公務員の例を挙げると、自動車教習所の技能検定員、車検の審査を行う自動車検査員、建築確認検査を行う指定確認検査機関の役職員などがあります。国立大学法人の役職員もみなし公務員です。いずれも刑事罰の適用については公務員とみなされます。

 いわゆる、みなし公務員ではありませんが、特定の犯罪について公務員と同じ規定が適用される者もいます。例えば、弁護士が裁判所から選任されて就任する破産管財人には贈収賄罪が成立します。中央競馬会の調教師、騎手などにも贈収賄罪が成立します。

 よく知られているとおり、私立学校の役職員についてはこのような規定がありません。そのため、例えば、対価を受け取って受験生を裏口入学させても収賄罪は成立しません。脱税や官僚の口利きなどの他の違法行為が絡んだ場合にだけ表面化して、耳目を集めます。これまでも法整備が必要ではないかという議論はありましたが、見送られてきました。

 さて、紆余曲折を経ながら検討が重ねられてきた学校法人のガバナンス改革では、評議員会の権限強化などの機関設計に大きな注目が集まっていますが、贈収賄などの罰則導入も議題の一つです。文部科学省が令和4年5月20日に策定した「私立学校法改正法案骨子」においても、「役員等による特別背任、目的外の投機取引、贈収賄及び不正手段での認可取得についての刑事罰を整備する。」との一文が維持されています。現に不祥事が発生していることや、同じく公費による助成を受けている社会福祉法人とのバランスを考えると、やむを得ない流れのようにも思います。このまま法制化された場合には、私学特有の慣行である保護者からの寄附金が賄賂と誤認されないような実務上の工夫が必要になるかもしれません。              (2022年11月8日)