理事及び理事会の役割
【Q】 私は、学校法人の理事長です。
この度、学校法人が新しい体育館を建設することになりましたので、建設用地として私が個人で所有する土地を学校法人に売却することを計画しています。
何か注意すべき点はあるでしょうか。
【A】 学校法人と理事との間の取引には、理事会の承認が必要です。
また、理事会の承認を受けたとしても、取引の内容によっては理事が学校法人に対し損害賠償しなければならないような場合もあります。
【解説】
ご質問のケースのように学校法人とその理事が相対する当事者となる取引(利益相反取引)は、理事が自身の利益を優先して、学校法人に損害を与えるおそれがあることから、法律が一定の歯止めをかけています。
改正された私立学校法が令和2年4月1日に施行される前は、理事長と学校との利益相反取引は、そもそも理事長に代表権がなく、所轄庁(文部科学大臣や都道府県知事など)が選任した特別代理人が理事長に代わって学校法人のために取引することになっていました。
しかし、今回の法改正により、特別代理人の選任は不要となり、その代わりに、学校法人と取引をしようとする理事(代表権を有しない理事も含まれます。) は理事会においてその取引について重要な事実を開示し、理事会の承認を受けることが必要となりました(私立学校法40条の5が準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律84条1項2号)。理事会の事前の承認を得ずに行われた利益相反取引は、無効となります。
ご質問のような理事と学校法人との間の不動産売買は、利益相反取引の典型事例ですから、あなたも重要事項を示した上で、理事会の承認を受けなければなりません。なお、議事について特別の利害関係を有する理事は、理事会の議決に加わることができませんので、あなた自身は議決に加わることができません(私立学校法36条7項)。
また、理事会の承認決議を受けたとしても、例えば、あなたの所有する土地が時価よりも著しく高額で学校法人に売却され、それによって学校法人に損害が生じたような場合には、取引の当事者となったあなただけでなく、理事会の承認決議に賛成した全ての理事が任務を怠ったものと推定され(同法44条の2第3項3号)、学校法人に対し損害賠償責任を負担しなければならなくなる可能性があります(同条1項)。これは、理事同士の馴れ合いで理事会の承認が形骸化して学校法人が損害を被ることがないように、令和2年4月1日施行の法改正で新設された規定です。従って、今後は、議事録に賛否を明確に記録する必要があります。
以上のとおり、理事と学校法人との間の取引には法律上の制約があり、処理を誤ると学校の信用を失墜させる深刻な事態に至ることもあります。必要に応じて、専門家の助言を得ながら、慎重に進めるべきでしょう。
以上