図書館での対応
【Q】大学の図書館において、利用者の求めに応じて図書館の職員が蔵書の複写サービスを提供することに何か問題はあるでしょうか。
館内にコイン式複写機を設置して、利用者に複写させることはどうでしょうか。
【A】いずれも一定の条件を整えれば可能です。
【解説】
1 図書館職員が複製する場合について
(1)著作物を複製する権利は著作者が専有していますから(著作権法21条)、著作者の許諾なしには複製することはできないのが原則です。
もっとも、図書館には学術研究の発展に寄与するという公共的役割があることから、著作権法31条1項は、一定の場合に、図書館(図書館の職員も含まれます)が著作者の許諾なしに利用者の求めに応じて著作物を複製することを認めています。
(2)複製が認められる一定の場合とは、概要次のとおりです。
まず、複写サービスを提供できる図書館は政令で定められており、大学の図書館はこれに該当します(著作権法施行令第1条の3第1項2号)。
また、複製の目的は、利用者の調査研究の用に供することに限られます。
さらに、複製が許されるのは、著作物の一部分だけであり、最大でも著作物全体の半分以下と解されています。
また、複製できるのは公表された著作物だけであり、未公表のものは複製することができません。
そして、提供できる複製物の数は、利用者1人につき1部とされています。
(以上、著作権法31条1項1号)
(3)以上の条件を満たせば、著作権法31条1項に基づき、図書館は複写サービスを提供することができます。
2 コイン式複写機を設置して図書館利用者が複写する場合について
(1)著作権法31条1項の複製の主体は図書館ですから、利用者自身が複写をする場合には同条は適用されません。
(2)なお、公益社団法人日本複写権センターと国公私立大学図書館側との合意により、以下の5つの条件を満たした場合には、著作者の許諾なしに利用者がセルフ式コピー機により複製することが認められています(平成15年1月30日付大学図書館における文献複写に関する実務要項)。
ⅰ 図書館が文献複写のために利用者の用に供する各コピー機について、管理責任者(及び運用補助者)を定める。
ⅱ コピー機の管理責任者は、司書またはそれに準じた者とする。
ⅲ 図書館は、各コピー機の稼働時間を定めて掲示する。
ⅳ コピー機の管理責任者は、管理するコピー機による文献複写の状況を随時監督できる場所で執務する。
ⅴ 図書館は、コピー機の稼働記録を残す。
従って、上記ⅰ~ⅴの条件を整えた上で、利用者にコイン式複写機を使用させることができます。
(3)ところで、著作権法30条1項は、私的使用を目的とするときは著作者の許諾なしの複製を認めています。そこで、この条文を根拠に、同法31条1項1号の「一部分」という制約なしに、図書館のコイン式複写機による著作物全部の複製も認められるという見解もあります(著作権法附則第5条の2は、「当分の間」、専ら「文書又は図画」の複製に供する複写機は、私的複製の適用除外である「自動複製機器」(著作権法30条1項1号)には含まれないとしています。)。
しかしながら、著作権法31条1項1号が厳格な要件の下に著作物の一部分のみの複製を認めている趣旨に照らせば、一部分(つまり半分まで)を超える複製が図書館備え付けの複写機によって自由になされることには解釈上疑問があります。また、多くの場合、大学の図書館の利用者が蔵書を複製するのは調査研究目的と考えられますから、著作権法30条1項の私的使用目的が欠けることも多いと思われます。
従って、図書館の運営にあたっては、著作権法30条1項を根拠としてコイン式複写機による無制限の複製を認めることについては、慎重であるべきです。
以上